大学に行かない進路を自分の“生き方”として選んだ ― 卒業生が語る、雪の町で見つけた未来
はじめに高校卒業後の「進路」と聞くと、大学進学。この記事を読んでいる多くの方は、その選択肢しか思いつかないかもしれません。でも、地域みらい留学をして、生まれ育った環境から離れ、地域の文化と関わり暮らす中で、自分で自分のこれからの生き方を選び取っている人がいます。今回お話を伺ったのは、東京都東村山市出身、山形県小国町(以下、小国)にある山形県立小国高等学校(以下、小国高校)に地域みらい留学で進学した塚原朱李さん(以下、塚原さん)。2025年3月に小国高校を卒業し、現在は福島県で「からむし織」という伝統技術を学びながら、自然の中で暮らす道を選んでいます。「大学に行かないことも、自分にとって正解だった」と語る彼女の言葉を通して、地域みらい留学のその先にある未来を、少しのぞいてみてください。 「普通じゃない進路」が、ずっと心のどこかにあった― 地域みらい留学に惹かれた中学時代の気持ち―なぜ、地域みらい留学をしようと思ったのでしょうか。昔から、“普通”に流れるのがちょっと苦手でした。中学時代から、周囲が選択しないことを意識的に選んできていて。自分らしくいることを大切にしていたからこそ、みんなと同じような“なんとなくの進路”には違和感がありました。進路を考え出した時に、都立高校や私立の進学校も見ていたのですが、どうしてもピンとこなくて。そんなとき、偶然目に入ったのが地域みらい留学のパンフレットでした。―どのように小国高校に決めたのでしょう。パンフレットを何気なく手に取り、出会ったのが小国高校。1学年1クラス、雪の多い地域、自然と文化に囲まれた暮らし。大人数や都会の喧騒が少し苦手だった自分にとって、小国の風景はどこか懐かしく、心が惹かれるものがありました。雪のある暮らしに憧れもあって、“ここに行ってみたい”と思いました。直感のような感じでしたね。 暮らしの中に学びがあった。小国で見つけた、“生きるように学ぶ”という日々。―小国での3年間はどのようなものでしたか。小国での暮らしは、学びと生活がまるごとつながっている感じでした。地域の人達と一緒に山に入っていって山菜を採ったり、木で箸やヘラを作ったりしたこと1から作ったかんじきを履いて雪山を登る体験。地元の食材を使った料理、雪に囲まれた日々、冬の暮らしの厳しさとあたたかさ。すべての経験が、“暮らしの中で生きている”という実感に変わっていきました。―印象に残っている体験はどのようなものだったでしょう。歓迎会で熊汁や猪肉が出てきたことには驚きました。マタギの方も近くにいて、自然の恵みをいただいて生きる暮らしにふれることで、日々感謝する気持ちを大切にできるようになった気がします。暮らしに必要なものを“つくる文化”があることも印象的でした。傘や籠、かんじき等、暮らしに必要なものを“買う”のではなく、自分で手を動かし“つくる”んです。そういた生き方や感覚は、都会の学校ではきっと得られなかったもの。何かを“つくる”って、自分で“選ぶ”ことでもあるんだなと感じています。自分にとって必要なものを、自分で確かめながら暮らしていく。そういう豊かさが、小国にはありました。―学校生活はどのようなものでしたか。小国高校では、探究的な学びや地域との協働活動も盛んで。少人数だからこそ先生や地域の方々との距離も近く、自分の「好き」や「得意」に向き合える環境が整っていました。「何が好き?」って、ちゃんと大人が聞いてくれるんです。正解を求めるんじゃなくて、「あなたはどうしたい?」って問いかけてくれる環境でした。進学か、暮らしか。迷った末に選んだ、今のわたしを生きる道 ― 大学進学ではなく、福島県でからむし織を学ぶ暮らしへ―現在はどのような進路へ?小国高校を卒業した後、私が選んだのは大学ではありません。進路を考え出した時に、最初に浮かんだ進路はもちろん大学進学です。でも、現在は福島県昭和村で「からむし織」という伝統技術を学びながら、畑を耕し、自分の暮らしを自分でつくっていく生活を送っています。―そのような選択をした背景を教えてもらえますか。小国で暮らしたことで、自分の中で“雪のある田舎での暮らし”が大切な生きる軸になっていて。ものづくりに興味があって、美大へ進学することも考えていました。でも、そうした学校の多くは都市部にあって、自分には合わない環境だなと感じたんです。都市に住むということ、毎日電車に乗ること、人と情報が行き交うスピードの中で生きること。それらがどうしても、自分の求める暮らしと合致しませんでした。そんなとき、図書館で読んだ一冊の本で出会ったのが昭和村の「からむし織」でした。美しい自然の中で、丁寧に織られる布。その文化と技術に心を惹かれ、地域に根差した“学び方”を選ぶことにしたのです。―生きることを大切にして、考え出した進路選択だったんですね。私は、空の色や風の音に気づきながら暮らしたいんです。豊かな暮らしって、自分にとっては“ものごとの移ろいを感じられる日々”であって、“忙しさに追われる毎日”じゃないんですよね。大学に行くことを否定するつもりはありません。でも、“行かなきゃ”と思って選ぶのは違うなって思いました。大学に行きたくなったら、そのとき行けばいい。今は、今の自分に必要なことを、必要な場所で学びたいと思っています。 おわりに「不安があるのは当たり前。でも、行ってみたいという気持ちが少しでもあるなら、まずは動いてみてほしいです。動いた先で出会う世界は、自分の想像よりずっと広くて、あたたかいですから」と塚原さんは語ります。地域みらい留学は、進学先を選ぶというよりも、本当の自分の姿や気持ちに出会うための挑戦かもしれません。社会の“当たり前”に惑わされることもなく、自分自身で自分の未来を選び取ってください。自分で選んでいいんです。あなたの人生ですから。 (取材・編集:地域みらい留学 事務局 小谷 祐介)